こんな男と2人きりで京都旅行なんて、嬉し過ぎて子供のように
「わーい」とはしゃぎたくなってしまう。


……何?と尚哉が訝る。
あまりにも奈緒子が見つめ過ぎてしまったために。

奈緒子は首を横に振った。


「あ、ううん…なんでもない。ねえ見て!
すごく綺麗なお庭」


改めて感心しながら、奈緒子は夜の闇に支配された座敷の窓硝子の向こうを眺める。


ライトアップされた広大な日本庭園。


テーブルの上の白い一輪挿しに、オレンジ色の愛らしい花が挿してあった。


部屋の灯りが窓硝子に当たり、鏡のようにその花の姿をもう1つ映し出していた。

「この花、綺麗ね」


太陽のような情熱的な色に、丸く小さなベルの花が俯くようにいくつか連なっている。

鮮やかな緑の葉と茎は、細く頼りないけれど、しっかりと艶がある。


繊細さと逞しさを持ち合わせたその洋花は古都の夜には、あまり似つかわしくない気がした。


奈緒子はあまり花の種類を知らない。

けれど、その花が気に入り、そっと指で触れた。


「この花、なんていうんですか?」


鱧の焼き物を運んできた給仕係りに、
奈緒子は尋ねた。


まとめ髪の、茄子紺の和装のまだ若い給仕は「さあ…」と困り顔をした。


「お、奥で訊いてきます」

盆で口を隠すようにして、
慌てて踵を返した。