車内アナウンスが、もうすぐ静岡に着くと告げた。
週末で希望する時刻の新幹線が取れず、少し早めの便での出発になった。
奈緒子は午後から休暇を取った。
女子ロッカーに奈緒子の旅行用のボストンバッグが置いてあるのに気付いて、
後輩の高田礼香が黙っているはずがなかった。
昼休みのトイレで、化粧直しをする奈緒子に、経理課のユカリと一緒になって、かしましく訊いてくる。
『奈緒子さん、どこか旅行ですか〜?
もしかして、彼氏〜?』
口々に訊くのを、奈緒子は意味ありげに口元を引き上げ、ふふん、と笑う。
『京都行くの。私、午後からいないからよろしくねー!』
あえて、誰との部分には触れない。
『きゃあー!!やっぱり!
絶対、男だよ〜!』
『いいなあ〜羨ましい!』
礼香とユカリは、女子高生みたいに、顔を見合わせて声を揃える。
『もう〜やあね…礼香ちゃん達、
若いんだからあ…』
これから、新幹線に乗るのだから、
あまりゆっくりしてはいられない。
もう2人のことはほっといて、
奈緒子はファンデーションをはたく。
礼香もユカリも無邪気をよそおっているけれど、若い女特有の残酷さを持っている。
24,5歳のの彼女達は31歳の奈緒子をどこかで哀れんでいる。
結婚もせず、この先どうするんだろう…という風に。
でも、奈緒子は責めない。
かつて自分だって、礼香達の年齢の時には、歳上の独身女をそう思っていたのだから。
たった一泊なのに、奈緒子の赤いボストンバッグはギッシリだった。
すごく重くて、腕に掛けると、腕がしびれてくる。
しかも、華奢なヒールのパンプスを履いてきたから、バランスの悪いことこの上ない。

