金曜日、午後2時5分発京都行き新幹線
「ひかり」は、ほぼ満席だった。


スーツ姿のビジネスマン達が多いが、
ちらほらと観光らしき女性グループも混じっている。


彼女達の表情は、旅行の高揚感で一様に明るい。


奈緒子の席は3人掛けのシートの窓際で、隣の2席はまだ空席だった。


眩しいほどの太陽光に包まれた午後の街を車窓から見ながら、奈緒子は、1時間程前に来た尚哉からのメールを思い起こす。


また読みたくなり、スマホを膝に置いたショルダーバッグから取り出した。



[洛北にある京懐石の店、8時に予約した。
俺、仕事が終わったら一旦ホテルに帰って、着替えるから。
もし、時間に来なかったら、
先に店に入ってて]



(ウフフ…、ウフフッ)


何度、読み返しても、嬉しくて、口元が緩んでしまう。


好きな男と金曜の夜、京都で逢い、食事をする。

女にとってこんな嬉しいことがあるだろうか。


たとえ、恋人同士ではなくても。

同じホテルの別々の部屋で寝る手筈になっているとしても。


スマホをバッグに仕舞い、ふと見上げると車両の通路を見知らぬ若い女が通る。


二十代半ばの女。

適度な肉の付いた身体。
流行りのファッション。


奈緒子の心は翳る。


ーー尚哉の彼女も、
あんな感じなのかな……



重大な現実を見て見ぬ振りをしている。


誰かを激しく傷付けてしまうかも
しれないのに。


自分のことを悪い女だと思う。
でも、罪悪感はなかった。


人がどう思おうとそんなこと構わない……


何もかもが尚哉次第だ。