「へへ…心境の変化。
もう、茶髪飽きたし!
失恋して髪切るなんて何時代だよ、っ感じだけど〜」
奈緒子は照れ臭くて、わざと語尾を伸ばして、ふざけた言い方をする。
(あっ….…)
それは、恵也の癖だ。
言ったあと、それに気付く。
奈緒子にも移ってしまった恵也のそれは、奈緒子のあちこちに染みついていた。
「可愛いよ」
尚哉はそう言った後、奈緒子からスっと離れた。
「行こうぜ」
自動改札を通る尚哉の背中を慌てて追いながら、奈緒子はくすり、と笑う。
(女の子を褒めて、
尚哉ったら照れている…)
分かりやすい尚哉が可愛い、と思う。
同い年なのに。
『恵也には、好きな女がいる』
尚哉から電話でそう聞かされた時、目の前が真っ暗になった。
でも、ああ、やっぱり…と妙に納得した。
その時から、奈緒子の思考は少しずつ変わった。
…恵也は、もう戻ってはこない。
奈緒子を愛してると言った恵也は、この世に存在しない。
断ち切らなくてはならない。
だから、髪型も服装も変えよう、と思った。
もう、濃いピンクやレオパード柄の服なんか着ない。
それは自分自身に対する決意表明だった。
昨日、美容室の帰りに、お年玉の残りで新しい服を買った。
大きめな衿のベージュのブラウスに細かいプリーツの入った紺色のミニスカート。
スカート丈は短くないと落ち着かなくてダメだった。

