今の父と母は、奈緒子を腫れ物のように扱っている。

愛娘が恋人と別れたことを、彼らも気が付いている。


中3の秋、恵也が突然目の前に現れてから、奈緒子の生活は変わった。

外出外泊を繰り返す日々で、2週間も家に閉じこもることなどなかった。


学校を休み続けている事で、学校からも何度も電話がかかってきている。


奈緒子の部屋の外で、大人達はざわめいている。


それでも、両親は
奈緒子を叱らなかった。



久しぶりに今朝7時に起きた。


パジャマ姿のまま、居間に行くと父は、
「おっ」と意外そうな声を出した。


食卓の上でガサガサと新聞を畳みながら、「朝飯すぐ食うか?お父さん達もこれからだから。目玉焼きでいいか?」と訊いた。

奈緒子が無言でうなづくと、キッチンに向かい、フライパンを棚から取り出す。


ベランダで洗濯物を干していた母も、奈緒子の顔を見ると「あら」と言って微笑んだ。


父の作ったハムエッグと白飯と味噌汁、沢庵、昆布の佃煮の簡単な朝食。


リビングテーブルを囲い、家族3人揃って食べる。


これも久しぶりだった。



「奈緒ちゃん、今日、誕生日だな…」


父が茶碗を持ちながら言う。


奈緒子は「うん」と短く答える。


なぜか父と会話をするのが照れ臭かった。


「…今日は天気いいみたいだなあ」


父が窓の方を向いて言うのに、誰も答えなかった。