雨の月曜日、午後2時。


ガラス張りの1階のロビーは、
いつもよりも薄暗い。


(雨は嫌い。だけど、今日のうちにたくさん降って、週末は晴れてもらわなきゃ…)


奈緒子は、受付カウンター裏のテーブルで、来訪予定客リストをぼんやり眺めながら、そんな事を考える。


雨だから、というわけではないと思うが、もう2件のキャンセルが出ていた。



「奈緒子さんてわかりやすいですね〜!なんか、いいことあったみたいですね!」


ブースの中で、高田礼香が奈緒子の方をみて、歌うように言う。


来訪客が少ないから、礼香の膝には、雑貨の通販カタログが置かれている。


さっきまでそれは奈緒子の膝の上にあった。


昔から代々受け継がれてきた習慣で、
総務課の女子社員たちは、皆、名字ではなく名前で呼び合う。


「やだあ。礼香ちゃんたら。なんにもないって!
私、なんか変だった?」


奈緒子はどきりとしてつい、赤くなってしまう。図星だった。


「変じゃないですけど、朝から嬉しそうですもん。
もしかして、彼氏出来たんじゃないですか?教えて下さいよ〜どこで知り合ったんですか?
幾つなんですか〜?」


礼香は人懐こく、奈緒子の左の二の腕をとって揺さぶるようにする。


三人姉妹の末っ子だという彼女は、
本当に甘え上手だった。


「彼なんて出来ないよー。出来たら、
とっくに自慢してるって!
それよか、私、今週の金曜の午後、用があって休みだから、よろしくね!」


礼香の追求を軽くかわしながら、胸の内は、踊り出したくなるくらい軽やかだった。



『今週の金曜の夜、
藤木尚哉と京都で逢うの』


このセリフが言えたらどんなにいいか。


昨夜8時、奈緒子が両親の店の手伝い
から帰り、風呂に入ろうと支度をしていた時、スマートフォンが鳴った。


尚哉からだった。