さすがに裸のまま、部屋の外に出ることは出来ないから、とりあえず、床に落ちていた恵也のスエット上下を下着なしで素肌に身につけた。


お世辞にも清潔とは言えないグリーンのカーペットの床には、脱ぎ散らかした制服や下着。

数冊の漫画雑誌。

コーラの空きペットボトル。


隣家の庭の松の木に蝉が止まったらしく、じいじいと粘つくような鳴く声で鳴き出した。


恵也はおもむろにベッドから降り、カラのペットボトルを拾いあげる。


ーーくそ蝉、うっせえ!


忌々しげに呟くと勢いよくガラス窓を開け、それを隣家の松の木に向けて投げつけた。


ーーやめなよ〜、また文句言われるよ。


奈緒子は恵也の背中に言う。


週末毎にたむろする恵也の仲間達の騒ぎ声と大音量のCDの為に、隣家と藤木家は険悪だった。


相変わらず鳴き続ける蝉の声を背に、奈緒子は1階のトイレに行くために階段を降りる。


尿意と恵也の執拗な愛撫で、下半身が熱かった。


(…あ、なんか、いい匂い……)


反対側のドアの向こう側には、台所があった。


台所から漂ってきたソース匂いに
奈緒子は振り返る。


尚哉が立っていた。

長身の後ろ姿。

白いTシャツの直線的な肩のライン。
小さなジーパンの尻。


それを一瞥しただけで、奈緒子は、何もなかったようにトイレに向かう。