こんなふうにするのも、初めてのことではなかった。


秋の海を見に行った時。

春の房総へドライブしに行った時。


レジャーシートを広げた上に横になった尚哉は、気持ち良さげに目を閉じる。



『膝枕してあげよっか?』


最初、戯れに言ったつもりだったのに、尚哉は普通に頷き、奈緒子の太腿に頭を預けてきた。


それ以来、何度もしている。


初めはただの友達だった。

元同級生で、元カレの弟で、メールを交わすだけの。


奈緒子には、恋人と呼べる人がいなかったし、尚哉は彼女と離れて横浜に戻ってきた。


お互い淋しかったのだと思う。



再会してから、初めて休日に映画を観に行って、スペイン料理の店で食事をした。

その時、訊いたことがあった。


まだ恋を意識していなかったから、とても無邪気に。


ーー広島の彼女って、いくつなの?
どんな人?


少しの間があって、向かいにいる尚哉は応えた。


ーーどんなって…普通の人だよ。


矢継ぎ早に質問を重ねた。


ーー結婚しないの?


ーーん、まあ、いずれね……



そう言ったあと、尚哉はわずかに眉をひそめ、奈緒子から目を逸らした。


大事な宝物に触れられるのを嫌がるように。


奈緒子は怯み、もう二度、尚哉の恋人について質問することはしなかった。