居酒屋のある地下階から路上へと出る階段を登りながら、奈緒子は後ろにいる尚哉を誘った。


「いいよ」


やはり、尚哉は断らない。

たいがい奈緒子の誘いを受け入れてくれる。



ほろ酔い気分で、夜の山下公園を散策することにした。


尚哉と過ごすこんなひとときが
奈緒子は大好きだ。


金曜の夜だから、やはりカップルが多い。


来週の今頃は、京都のどこかでこんなふうに2人きりで過ごしているはずだ、と思うとスキップしたくなる。



漆黒の空の下、そびえる氷川丸。


その勇姿は、子供の頃から何度も見ている光景だ。


初夏の海風が気持ちよかった。


昼間は、たくさんの鳩が群れ、人々の憩いの場所となっているのどかな公園も、今は、カップルが絡み合うようにして歩くのに、最適な場所だ。



「ね、尚哉。腕組んでいい?」


ほろ酔い気分の奈緒子は人肌恋しくなり、甘えた声で尚哉の左腕を取る。


「いいよ」


いつも尚哉は拒否しない。

すっと左腕を上げ、奈緒子の腕が絡みやすいようにしてくれる。