『先生』は人目に付かないような死角にあたしを降ろし、頭を優しく撫でた。
まるで怯える子供をあやすような手付きで、優しく、優しく……。
そしてまた抜刀して表へ出ていった。
あたしはそのまま、目をぎゅっと固く瞑り、両手で耳を塞ぐ。
何も聞こえない、何も見えない。
そういうときこそ、恐怖心が強くなる。
大丈夫、大丈夫とあたし自身に何度も言葉をかける。
出来るだけ、そこで身を潜めても小さくなって待っていた。
……ふと気がつくと、さっきまで少し聞こえていた雄叫びが聞こえなくなった。
終わったのかな……?
不安になって少しずつ目を開くと……
「あ、よかったあ~!
てっきり気を失ってるかと思いました~(笑)」
さっきみたいに、顔を覗きこんだ。
でも余りにも、へらへしてるから正直ビックリした。
「さ、後は隊の人に任せて♪
私たちは屯所に行きましょうね♪」
なんで語尾に音符がついてるのよ…。
なんか、るんるん気分だし…。
『先生』はひょいっとあたしを持ち上げて、その場を離れた。
スタスタと随分速く歩くから、足長いなぁ~なんて思いながら素直にお姫様抱っこされてそのまま『屯所』とやらに着く。
屯所は見た目は道場みたい。
でも門番が二人いる。
屯所に入るなり、『先生』は履いていた下駄を脱いで
「ひっじかったさぁぁぁん!!!」
と大きな声で叫んだ。

