side 魁王
面倒だ。
凄く面倒なことになってしまった。
八王子を見送ってから俺は廊下を抜けて、大学の小さな中庭に顔を出す。そう、此処に面倒の"原因"がいるのだ。
それは____……。
「あ、先輩。来たんですね」
クスクスと楽しそうに俺の前で笑う一人の男。篠崎要。
俺はぶっきらぼうに「嗚呼」とだけ返した。こいつは苦手だ。
中学の頃はそうでもなかったのだ。普通に良い奴だと思っていたし、仲間だと思っていた。が、しかし。
その"仲間"はとある"事件"で崩れ去ることとなる。
「もしかして、俺から乗り換えて八王子くん選んだり、……しませんよねえ?先輩」
釘を刺すように言われた言葉。
俺はバツが悪そうに眉を潜めた。こいつは独占欲が強い。俺がこいつと付き合いはじめてからというもの、俺はずっとこいつに縛られてきた気がする。
何度も何度も別れようかと考えたが、"事件"のこともあり、なんだか此方から別れようとは言えずに。
俺なんてすぐに飽きるだろう。そう思って、相手の様子を探っていたのだが、特に離してくれる様子もなく、寧ろ段々と迫られている感じがする。
「……別に、選ぶとか選ばないとか、そういう問題じゃないだろ」
相手の目を見ずに口早にそういうと、「ふうん」と疑るような声が聞こえた。
少しの間沈黙があったが、篠崎はまた楽しそうに笑い、俺の頬に手を当ててくる。
「まあ、先輩はお利口ですもんね。もし、先輩が裏切るようなことがあれば、俺許しませんから」
それだけ言うと、スッと顔を近づけてくる。
___キス。
篠崎は意地悪い笑みを見せると、「それじゃーね、先輩」と言って去っていった。

