そんなある日。

「おーい、みんな、進んでるか?」
 松本くんが、久々に学級委員らしく声をかけた。
 だけど返ってきたのは、
「全然」
 …という、つれない返事の大合唱。

「お前ら、言い切るなよ…」
 力の抜けたような声で言う松本くんに、1人の男子が不満げに言う。
「だってさー、迷路なんて言われても、イメージ湧かないんだもん。 どうしようもないよ」
 すると松本くんは、腕組みして答えた。
「うーん…まあ、確かにな。 …よし。 じゃ、明日は土曜日だし、行ける奴だけでも“巨大迷路”に行ってみるか!」

 “巨大迷路”っていうのは、町はずれの遊園地にある迷路。
 なんでも、出るのに30分はかかるらしい。
 そんな難易度の高い所、参考になるのかな?

 …あたしの気持ちを知らない松本くんは、自分でナイスアイデアとでも思ったらしく、威勢よく声を張り上げる。

「明日行ける奴、挙手!!」

 …返ってきたのは、冷たい視線と気まずい沈黙。
 言わんこっちゃない。…まぁ、言ってないけどさ。
「…あ、ああ、明日って試合あるんだっけ?」
 かろうじて声を上げた松本くんに、さっきの男子がまたそっけなく答える。
「おう。 バスケ部以外はな」
「じゃあバスケ部の奴は! ……って、俺だけか。 えー、女子も?」
 すると1人の女の子が、すごく、ものすごく残念そうに。
「みんな、試合とかコンクールがあって…」
 そう言った。
「そうか…。 …あ、里田。 お前、確か帰宅部だったよな?」

 ぎくっ。

「そ…そうだけど…」

 こんな人と遊園地なんて。

「あたしはー、そのー……」

 行きたくない。

 …なんて言えない!!!

「行けるよな?」

 松本くんの声に、

「……はい」

 うなずくことしかできなかった。

「じゃあ、2人な。 行ってくるわ。 適当に、何か考えとくから」
「おー!!」
 途端に元気になる男子たち。
 あと、ちょっと痛い女子からの視線。

 …って…

 あたしが、松本くんと、2人で遊園地―――!?