校内から飛び出して、ただひたすらに、がむしゃらに走って、辿り着いた場所。

 それは、外だった。
上を向くと、眩しいくらいの青空を背景に、見慣れた木の枝が見えた。

「・・・・此処は・・・・・」

桜の木の下、だろうか?
気付かない内に、いつも来ていたこの場所へ着いてしまったのか。

 それにしても、全くなんで私はこんな性格なのだろう。
この性格のせいで、今まで一体どんなに辱めを受けてきただろう。
小学校の時だって、ただあがり症なだけでいじめられたし、
 中学3年になって、また昔と同じ様な事になった。

・・・でも、そんな気持ちだって、此処に来てしまえば何処かへ飛んでいってしまう。

やっぱり、此処って落ち着くな。
 ・・・この桜の木には、なにか「力」がある気がする。
強く生きながらも、優しいオーラを持っている。
私を、暖かく包んでくれる様な、そんな感じ。

 その暖かさは、あの人に似ていて。
包み込まれると、なんだか涙が流れてきて。

 木にとまり、鳴いている蝉の声。
それは、何処か私の傷だらけの心を、慰めてくれている気がした。

 夏の暑さを和らげてくれる、木の間をぬって通り過ぎる風。
それは何処か、私の零す涙を拭き取ってくれる気がした。

 夏は、あまり好きではない。
でも、今だけなら好きになれるかも。

「・・・・気持ち良い・・・・」

 長い髪が、風に靡かされる。
顔に涼しい風があたり、涙が乾いていく。
心まで風があたり、だんだん心の傷が癒えて行く。
こうしている時が、一番“楽”だ。

「深里?」

 そう呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある、男らしい声。
振り返ってみてみると、

「・・・・敦先生。」

 先生が、心配そうな表情で立っていた。

「心配したんだぞー?
 教室戻ったら、学級委員長の姿だけ無いんだからな?」
「・・・・それはそれは、すいません。」

 先生は、よくそんなに元気でいられますね。
そう言ってやりたくもなった。

「・・・・・深里、何かあったのか?」
「何も無いです。」
「本当か?」
「はい。」

 素っ気無い風にしか、今は返事できないから。
先生がどんなに心配してくれていても。
「・・・・・何かあったら、いつでも先生に言うんだぞ?」
「・・・・。」
 私が何かを相談できるのは、
今は・・・・親と、冬彦・・・・だけ、かな。
先生の事は、信頼できません。
そう、心の中で返事した。
「・・・ほら、もう授業始まるから、教室戻らなきゃ・・・」
「・・・もうちょっとだけ、此処にいます。
 ちゃんと教室に、戻るんで・・・」
「・・・分かった。」
 そんな短い会話をした後、先生は教室へと先に戻っていった。

 私は木の幹に抱きつき、
「いつまでこの日々が続くの?」
そう嘆いてから、教室へと戻っていった。
・・・桜の木に嘆いても、何も変わらないよね・・・。


 この時は、まだ気付いていなかった。
先生が、心の奥で秘めている気持ちになんて──