月夜の翡翠と貴方【番外集】



喉元から、血がたらりと流れる。


わずかに切った皮膚から、血が流れはじめた。


「君みたいな女、大嫌いだよ」


レンウが、私の皮膚を切ってゆく。

鋭い痛みが走り、私はナイフを動かした。


…ルトに、会いたい。

せめて最後に、ルトに会えたらいいのに。


『大嫌いだよ』と言って。

『大好きだよ』と告げて。


…彼の深緑を、目に映して。




「そこまでだ、レンウ」


私が、目を閉じかけたときだった。


目を見開いたレンウが、後ろを振り返る。

目を開けて見えたのは、主人の姿。


…幻?

私はもう、死んだのだろうか。


息を切らしたルトが、歯を噛んでレンウを睨んでいる。

レンウの背中には、剣が突きつけられていた。


…幻では、ない…?

レンウは明らかな焦りを露わにし、私の喉元から短剣を離した。


「…よく来れたね。驚いた」

それでもなお笑おうとするレンウを、ルトは厳しい視線でかわす。


「…いくらお前でも、許さないよ」


カタカタ、と音がした。

驚いて目を向けると、それは短剣を手にしたレンウの、手の震えで。