月夜の翡翠と貴方【番外集】



「….聞いていたの?」

知られたとすれば、原因は宿でのルトとの会話だ。

それを聞かれていたのか。

レンウは「勘がいいね」と笑う。


「まさか、思いもしなかったよ。美しい君が、奴隷だなんて」


不思議なものだね、と言うレンウを、私はぼんやりと見ていた。


…私は、売られるのだろうか。


ルトのいない場所で、生きていかなければならないのだろうか。

ようやく、ずっと忠誠を誓える主人に出会えたと思ったのに。


…冗談じゃ、ない。

本当に、笑えない。


いっそ、死んだほうがましだ。

彼のいないところで、生きていくなんて。


レンウは立ち上がって、再度木箱に座る。

私はその様を、後ろ手首を動かしながら、見ていた。


自信なんて、全くない。

愛されている理由もわからない。


それでも、私は囚われているのだから、離れることなど出来ないのだ。

『奴隷と主人』だけではない、と彼はいったけれど。

もう、なんでもいいなと思った。


どうしようもないことは、私だってわかっている。