月夜の翡翠と貴方【番外集】




「…こんなことしても、ルトのためにはならないわよ」

鋭くレンウを睨むと、彼は立ち上がって身を屈めた。


「…嫌いなだけだよ」


縛られていて動けない私の体を、ゆっくりと起こす。

触れられることさえ嫌だったが、手が自由に動かず、されるがままだった。

私を地面に座らせると、レンウはニヤ、と笑った。


「…嫌いなものは、排除しないと気が済まない」


そこに理由は存在しなくても、と言うレンウは、とても恐ろしいものに見えた。


「…殺すの?私のこと」


身体の震えを抑え、まっすぐにレンウを見つめる。

彼はふ、と笑むと、「美人を殺すのは惜しいだろう」と皮肉げに言った。


「せっかくだから、君のいるべき場所に売るよ」


…売る。

その言葉で、私のなかの『まさか』という思いが、現実味を帯びて確信へと変わった。

…知っている。


私が、奴隷であったこと。