月夜の翡翠と貴方【番外集】



どうやら、私は暗い路地に放り出されているようだった。


…ご丁寧に、身体を縄で縛って。



「…どうするつもりなの」

低い声で、上を睨むように見上げる。


レンウは「可哀想な子だね」と笑った。

「今目覚めなければ、抵抗する気すら失せてるだろうに」

私は、眉を寄せた。

「…どういう意味?」

「船に乗っていれば、もう諦めがつくだろう?」

まだそうやって、僕を睨むような気持ちがあるのは可哀想だ、と言う。


…船…?

確かに私を『連れ去る』と言ったレンウは、冗談めかしてはいるが、その言葉は冗談ではないようだった。


まさか、私と共に船に乗ろうと思っているのか。


「今は、船の待ち時間。あと少しかな〜、時間がきたら、君をあの袋のなかにでもいれるよ」

そう言って指差す先にあるのは、麻の大きな袋。


私はようやく身の危険を感じて、身体を震わせた。

…ルトは、きっと今頃探し回っているだろう。


いなくなった、私とレンウを。