月夜の翡翠と貴方【番外集】


今まさに声を出そうとしていた私は、とっさに口を閉じる。

レンウはルトに、笑って「買ったのかい?」と訊いた。

「え?ああ、うん。適当に、良いものを」

「大雑把だね」

「いいんだよ、使えれば」

そう言って、ルトはさっさと店を出ていく。

私は慌ててその後ろへついていった。


…ああ、まさか。

レンウは…………


見慣れたルトの背中を眺めながら、ジェイドは胸騒ぎが止まらなかった。







貴方は、いつも優しい。


私はその優しさに、甘えてばかりで。

何度助けられただろう。

何度慰められただろう。

何度救われただろう。


数えきれないくらいに、

貴方からもらった名前を呼ばれた。


ああ、美しくなれたらいいのに。

心まで、この名に恥じぬくらい、綺麗になれたら。

そう何度願っても、やはり私は奴隷のまま。


けれど貴方は、そんな私を好きだという。


そう、私も。

冷たくて恐ろしい貴方も、

大嫌いな笑顔も。


きっと、嫌だと思いながら、受け入れるのだと思うの。