月夜の翡翠と貴方【番外集】



しかし相手がこちらを見ていないので、私は眉を寄せて、再度短剣に目を移した。



「…そこに、奴隷屋があったんだよ」


…え…

私が目を見開いたのを知ってか知らずか、「はじめて見たよ」と、隣でくすりと笑う声がする。


…何故、そんな話をするのか。

大嫌いなはずの私など、放っておけば良いものを。

レンウを見れずに、短剣をひたすら眺める。

レンウは、笑った。

薄く、蔑むように。


「…なんて、卑しいものたちだろうね。醜く汚くて」


どく、と、心臓が嫌な音を立てる。

私は、否定も肯定もできない。


レンウはやはり、言葉を紡ぐ。

恐ろしい、その唇で。


「…その上役に立たないなんて、とんだ屑だね」


……まさか。


眉を寄せてレンウを見上げると、彼はこちらを見下すように、視線を寄越していた。

まさか。

まさか、まさか…!



「…なに話してんの?」


腰当てに剣を下げたルトが、こちらを見つめていた。