月夜の翡翠と貴方【番外集】



…あ。

まずい、と思った時に舌打ちをする、彼の癖。

何かに、気づいたのだ。

焦ったような顔をしたルトは、私を見て「逃げろ」と言った。

え…

驚く私に構わず、彼はタツビの頭をバシッと叩く。


「いっ…!な、なにするんだよ」


眠そうな目を開いてそう言ったタツビは、ルトの真剣な表情を見てビクリとした。

「…起きろ。自分で歩け」

その低い声に怖くなったのか、タツビの目がしっかりと開く。

ふらりとしながらも、自分の足で立ったタツビの頭を、ルトは優しく撫でた。

「……ルト」

「ジェイド。お前は子供を連れて、来た道を戻れ。んで、適当な店のなかに入っとけ」

彼の目は、前を厳しく捉えている。

…まさか、その先に?


「…ジェイド、早く」


前を向いたまま低い声で言われて、私は肩を震わせた。

…もしかして、敵とひとりで戦う気なのか。

ただでさえ疲れが溜まっている、その身体で?