月夜の翡翠と貴方【番外集】



あとは、近くの酒場などから笑い声が聞こえてくるくらいである。

村は祝祭の余韻を残したまま、夜を迎えた。

人の通りも、少ない。

ルトはキョロキョロと周りを見渡しながら、早足で宿へと向かっていた。

…恐らく、敵の存在を警戒して、だろう。

祭りによって警備が手薄で、人通りの少ない夜。

こんなときが、いちばん危ないのだ。


しかし、民家の明かりが少ない通りで、タツビが「もう無理だぁ」と言い出した。

「もう、眠い。歩けねえ…」

ふらふらとした足取りで、地面に座り込んだ。

「…た、タツビくん」

慌てて、立ち上がらせる。

前を歩いていたルトがこちらに気づいて、振り返った。

「どうした?」

「もう、歩けないって…」

「……ジェイド、ネオちゃんおぶって」

ぐっすり眠っているネオを、背中に乗せられる。

少し重いが、ここから宿までなら、歩けるだろう。

ルトがタツビを抱えて、立ち上がった。

……そのとき。


ルトがハッとして、動きを止めた。


「……ルト……?」

私の声が、辺りに響く。

ルトは宿の方向へ振り返り、舌打ちをした。