月夜の翡翠と貴方【番外集】



「いいよ、来年も来よう」


彼の誤魔化すような笑顔を見て、自分の何気なく言った『来年』という言葉の意味に気づいた。

……来年。

私は彼の隣に、いられるのだろうか。

この危ない世界で生きている限り、明日への保証すらないのに。


……こうやって今、彼とこの景色を眺めることができる。


それだけで、満足かもしれない。

もう、悔いはないかもしれない。

欲張りすぎると、手に入らなかった時に辛いから。


『私を忘れないで』


翡翠葛の花言葉が、私の胸に刺さる。

…もしも、私が死んだら。

貴方はその先も、私のことを覚えていて下さいますか。






「…さてと。宿に戻るかー」


今にも眠ってしまいそうなネオを抱えると、ルトは歩き始めた。

私は、タツビと手を繋いでいる。

女の私が抱えて歩くのは無理だと思ったのか、タツビは眠たい目をこすりながらも必死に歩いてくれていた。

もう、深夜を超えた時間帯。

花舞いが終わると、村の人々は満足した様子で自分の家へと帰っていった。