「いいよ、来年も来よう」
彼の誤魔化すような笑顔を見て、自分の何気なく言った『来年』という言葉の意味に気づいた。
……来年。
私は彼の隣に、いられるのだろうか。
この危ない世界で生きている限り、明日への保証すらないのに。
……こうやって今、彼とこの景色を眺めることができる。
それだけで、満足かもしれない。
もう、悔いはないかもしれない。
欲張りすぎると、手に入らなかった時に辛いから。
『私を忘れないで』
翡翠葛の花言葉が、私の胸に刺さる。
…もしも、私が死んだら。
貴方はその先も、私のことを覚えていて下さいますか。
*
「…さてと。宿に戻るかー」
今にも眠ってしまいそうなネオを抱えると、ルトは歩き始めた。
私は、タツビと手を繋いでいる。
女の私が抱えて歩くのは無理だと思ったのか、タツビは眠たい目をこすりながらも必死に歩いてくれていた。
もう、深夜を超えた時間帯。
花舞いが終わると、村の人々は満足した様子で自分の家へと帰っていった。



