月夜の翡翠と貴方【番外集】



…恨んだって、仕方のないことだと思うけれど。

それでも。


この国を憎まずには、いられないのだ。


「俺らは、王族の贅沢のために生きてるんじゃない」


ルトが、低い声で「うん」と言う。

私を、優しく抱きしめながら。


……この格差は、きっとこの先革命でも起こらない限り、なくならない。

私のなかから今でも、奴隷としての恐怖が消えないように。

今までに何度、この国を恨んだかわからない。

…けれど。


「……非道な商人め、奴隷の人々を解放しろ!」


平民らしき村人が、奴隷商人に向かってそう叫んだ。

その顔は、怒りに満ちていて。

周りの村人達も、一緒になって「そうだ、そうだ!」と言い始めた。

「お前みたいな奴がいるから、この国は駄目なんだ!」

「早く、奴隷の解放を!」

奴隷商人はしばらく無視をしていたが、やがてうるさそうに眉を寄せ、逃げるように通りから消えていった。