「……だから、この国は嫌いなんだ…」
横から聞こえた低い声に、驚く。
タツビが唇を噛んで、奴隷商人を睨んでいた。
ぎゅっと、ネオを抱きしめたまま。
「……この国で、俺らみたいな平民以下を見下して笑ってる。王族も貴族も、大嫌いだ」
その言葉に、ネオがビクリと肩を震わせた。
それを見て、タツビは「ちげーよ」と一層強く抱きしめる。
「…プリジアだけは、特別だ」
言い聞かせるように、ネオの耳元で囁く。
タツビは目の前の光景を見つめて、苦々しく顔を歪めた。
「…金持ちたちには、こうやって奴隷にされてる人間がいたって、関係ないんだ。自分達さえいい暮らしができてりゃ、それでいいんだ」
ルトは悲痛そうな顔をして、何も言わずにタツビを見ている。
私は通り過ぎていく奴隷商人を、ぼうっと眺めていた。
…この商売でよほど儲かっているのか、それとも見栄を張っているだけなのか。
奴隷商人の男は、見るからに高級で派手な服装をしていた。
得意気な顔をして歩いていくその姿に、人々が目を逸らす。
タツビはまた、「大嫌いだ」と吐き捨てるように言った。
「……あの男も、王族も貴族も。金に地位に、狂ってるんだ。平民以下の奴は、自分達のために存在すると思ってる」
タツビの言葉を聞きながら、私は目を閉じた。



