月夜の翡翠と貴方【番外集】



「……見るな」

耳元で囁かれ、深呼吸をする。

タツビは見慣れているのか、怖がるネオを抱きしめていた。

……きっと、祭りに乗じてやってきたのだろう。

小さな村とはいえ、治安は悪くなさそうなこの村で、普段奴隷屋のテントは立てられないはずだ。

けれど、祭りで役人の警備が手薄になっている今。

テントも張らずに、奴隷商人は見世物の如く奴隷を引き連れ、歩いていた。


「……私、あれがいちばん嫌い…」


呼吸をしながら、震えた声でそう言った私に、ルトは静かに「うん」と返事をしてくれた。

……テントのなかなら、用のある人間としか会うことはないけれど。

ああやって奴隷に頑丈な首輪をはめ、鎖をジャラジャラと擦らせながら、街や村のなかを歩く奴隷商人もいる。

まるで、見世物のように。

平民はもちろん、様々な身分の人々が、汚いものを見るように目を細め、通り過ぎていくのだ。

私には、それが嫌でたまらなかった。

自分がとても卑しい身分にあることを、実感させられる。

人々が、眉を寄せてこちらを見ている。

それがどれだけの屈辱で、恐怖か。

私は痛いほど、知っている。