月夜の翡翠と貴方【番外集】



「……食事の、時間だったな。行こうか」


私から顔をそらして、彼は歩き出してしまう。

どうして、なんて訊けない。

だって私、今までずっと貴方を傷つけていたもの。

……でも。


「……ロディー様……」


小さな小さな呟きは、誰の耳にも届かない。

…不安になるくらい、許してはいただけませんか。






それからオリザーヌは、一週間ほど結婚準備で慌ただしかった。

私とルトはその間、一度モンチェーンへ帰るというロディーに同行したりして、暇を潰した。

そして、親交のある家を招いて結婚を発表する夜会の、三日前。

再びロディーが、ディアフィーネへやってきた。


「ロディー様っ!」


明るい顔をして出迎えたセルシアに、ロディーが恥ずかしそうに「あ、ああ」と目をそらした。

…この数週間で、随分と仲良くなったようだ。

その様子を見て、ルトがニヤニヤと隣で笑っている。

嬉しそうに笑うセルシアに、ロディーは耐えられなくなったらしい。

そのままスタスタと、セルシアの横を通り過ぎてしまった。

……今までにもこんなこと、何度もあったのに。

気のせい、だろうか。

その瞬間、セルシアがショックを受けたように見えたのは。