月夜の翡翠と貴方【番外集】




彼はこちらをちらりと一瞥した後、「…ああ、わかった」と心なしか沈んだ声色で返事をした。

…なんだか、元気がない。

私は階段をおりる足を先程より少しだけ速くしながら、もう一度「ロディー様」と呼んだ。


「…何故そんな………」


お顔をされているの、と訊こうとしたとき、階段に足が躓いた。

「…あっ」

身体が、大きく傾く。

落ちそう、と思ったそのとき、ロディーがこちらへ手を広げた。

力強い腕に、しっかりと受け止められ、抱きしめられる。

腰に回された手に、心臓が飛び跳ねた。

「…あっ、ありがとう、ございます」

「……気をつけろ」

「す、すみませ……」

…そう、言おうとして。


彼の顔が、目と鼻の先にあったことに気づいた。

至近距離で、ばちりと目があう。

綺麗な黒の瞳に自分が映っているのを見て、顔が熱くなった。

「あ……」

誰もいない、空間。

腰に回された、手。

…少しずつ目を閉じて、近づいてくる彼の顔。