月夜の翡翠と貴方【番外集】



「なになに、可愛いじゃーん。どしたの、いきなり」

「べっ、別に…」

頭を撫でてくる手を退けようと、顔を上げる。

すると、彼は急に悲しそうに微笑んだ。


「……それでいいよ、お前は。無理に言葉にしようとしなくても、伝わってるよ」


…何故彼が、こんなに寂しそうな目をして笑うのか、私にはわからないけれど。

愛しいと、思った。

彼に、この愛を、伝えたいと思った。

す、と背伸びをして、かかとを上げる。

ゆっくりと触れるだけのキスをして、私は彼の目を見つめた。


「……これで、もっと伝わった?」


ルトが頬を微かに赤く染めて、恥ずかしそうにはにかむ。

…きっと、想いの伝え方も、受け取り方も。

人それぞれに、違うから。


すれ違っていたセルシアとロディーは、やっと見つけたのかもしれない。

ふたりのための、愛情表情の仕方を。





「ロディー様っ、食事の用意が整いましたわ」


階段をおりながら、階下にいる彼へそう声を掛ける。