月夜の翡翠と貴方【番外集】



…『集中して。目が使えないなら、耳を使え。相手の足音を聞き逃すな』


耳を、使え。

足音を、聞き逃すな…!

目の前の音だけに集中して耳をすませると、段々と足音が大きく聞こえてきた。

ギシ、ギシ…と、左側から音がする。

わずかな息遣いは、右側から。

すぐ前から聞こえたチッという舌打ちは、きっと男のものだ。

全員の位置を把握した。

私は立ち上がると、目の前にあった木製の箱をバン、と叩いた。


「そこか!?」


急いで伏せると、四つん這いのまま右へ進む。

男が、先程音を立てた場所で手当たり次第に剣を振り回しているのが、風を切る音でわかった。

物にぶつからないよう、慎重に進む。

すると、もうひとりの男が「この辺りだな?」と言いこちらへ向かってきた。

ぎゅっと唇を噛んで、耳をすませる。

…まだ、大丈夫。

男は、私の目の前にいるわけではないようだ。