月夜の翡翠と貴方【番外集】



「待て!!」

無傷のふたりと、脇腹を押さえながらも、上等な剣を持った男が、追いかけてくる。

…囮としては、成功だけれど。

このまま、逃げ切れるかどうか。

私はさほど広くない家の中を走り回って、真っ暗な一部屋に入った。

何も見えないなか、手探りで物陰に隠れる。

…そろそろ、ルトが来た頃だろうか。

割れた窓に気づいてくれたら、助かるのだが。


「ここか!」


バン!と派手な音を立てて、部屋の扉が開けられた。

しんと静まり返った室内に、敵の三人が足を踏み入れて来る、ギシギシとした音だけが響く。

浅い息さえするのが悔しい。

…音を、立ててはならない。

こちらが先に、仕掛けなければならない。

ドクドクと激しく脈打つ心臓の音さえ、沈まれと願った。

暗い、真っ暗な部屋の中。

視界の利かない、敵がどこにいるかもわからない。


…どうする?どうやって、仕掛ける?


そのとき、ルトとの会話を思い出して、私はパッと目を閉じた。