月夜の翡翠と貴方【番外集】



「おい!女が逃げるぞ!」


男の叫びと共に、あちらから強盗の女が後を追おうと走って来る。

…絶対に、住民を逃がす…!

私は飛ばすためのナイフを取り出すと、走る女との距離を測った。

ミラゼの言葉が、頭のなかに響く。


…『ナイフが飛んで、相手に当たるまでの時間を考えて、飛ばすのよ』


…今!

シュッと音を立てて飛ばしたナイフは、女の太腿へ突き刺さった。

「…っ痛っ…!」

女が顔を歪め、足を押さえて転ぶ。

…二人目。

浅い息を吐いて、私は奥の男女を見つめた。

男は私と倒れているふたりを見て、チッと舌打ちをする。

「くそっ…!この村に退治屋を雇う金はないはずなのに…!」

…だって、雇われていないもの。

人助けだ、これは。

男は忌々しげに私を見つめると、「おい!」と叫んだ。


「この女に構ってる暇はない!金だけ持って、撤収するぞ!!」


…ルトが昨日の晩、言っていた。

『こんな貧しい村を、こんな夜更けに襲おうとする奴なんか、高が知れている』、と。