月夜の翡翠と貴方【番外集】



他の者は、別の部屋で金品を探しているのだろう。

割れた窓から差している月明かりが逆光となって、男は目を細めていた。

…この格好なのは、闇に紛れるためだけではない。


敵に、一瞬でも味方と思わせるため。


コツコツと静かにそちらへ歩いて行くと、男は小さな声で「…おい」と言う。

すぐに攻撃してこないのは、少しでも私を味方かもしれないと思っているからだろう。

私が近づくに連れて、涙を流した女の顔に、さらに恐怖の色が濃くなる。

私は男とわずかに距離を取って立ち止まると、女へナイフを突きつけた。


「…おい!お前、誰…」

「下がれ、女」


できるだけ低い声で、男の言葉を遮るように言った。

女が、びくりと肩を揺らす。

しかし、男から見えないフードの下の私の顔を見て、彼女は目を見開いた。


…昼に、篝火台の設置を手伝いに来てくれた、女だった。


私は小さく微笑んで、『大丈夫』と唇を動かす。