月夜の翡翠と貴方【番外集】



はやく、はやく。

カタカタ震える手に、苛々する。

火傷しないように手袋をして、私は箱から燭台を取り出した。

震える手を必死に抑えて、炎の揺れる燭台を、篝火台に入れられた木材へ近づける。

すぐに燃え移った炎は瞬く間に大きくなり、私の顔を照らした。

…なんとか、できた。

少しだけ息をついたが、そんな暇はないのだと我に帰り、急いで燭台を箱へ戻す。

近くの民家の陰に箱を置くと、私は上層の方を見上げた。


…橙の灯りがひとつ、見える。


よかった、伝わった…!

これで、ルトがこちらへ来てくれる。

あとはそれまで、私が時間稼ぎをするだけだ。


もう一度深くフードを被り直すと、私は先ほどの道を走った。

胸の動悸が、痛いほど激しい。

私は襲われた民家の近くの壁で様子を見ながら、深呼吸をした。

…見張りはいない。

大丈夫だ。

ぎゅ、と、ミラゼにもらったナイフを握りしめる。