月夜の翡翠と貴方【番外集】



震えそうになる手をぐっと堪えて、歩みを進める。

歩き始めて五分ほど経った…そのときだった。


近くから、窓の割れる音がしたのは。


「………!!」

急いで、音のしたほうへ向かう。

民家の壁を伝って、そろそろと近づく。

曲がり角からちらりと顔を覗かせると、『それ』は見えた。


…明らかにこの村の者ではない…黒の服を着た集団が、割れた窓から家のなかへ入っていく。


「…キャァァ…!」

…家の中から、悲痛な女の叫びが聞こえた。

しかし、すぐにその叫びは「…ひっ」という声とともに止む。

私はすぐにその場から離れると、ここから最も近い篝火の場所へ走った。


…こちら、だった。

私のほうだった…!

カタカタと震え始めた手を、もう片方の手で抑える。

篝火台の前に着くと、私は座り込んで、箱を置いた。

…私が、やらなきゃ。

篝火をつけて、ノワードに強盗の位置を知らせなければ。

ルトは来ない。

私以外に…今村人を助けられるのは、私以外にいない。