月夜の翡翠と貴方【番外集】



「そ…そんな。いただけません!」

「どうか、受け取ってください。お近づきの印に」

え…?

私が目を見開いたのと同時に、セルシアは屈んで、私の手をとった。


「…おこがましいかも、しれないけれど。…私と、お友達になって下さいませんか」


合わせた彼女の目は、真剣で。

その頬は、僅かに赤みを帯びていた。

突然の言葉に、驚きを隠せない。

「…せ、セルシア様。私などと友達なんて…」

「敬称なんて、お付けにならないで。セルシア、と呼んでくださいな」

依然、セルシアから『横で叱って下さい』と頼まれたときを思い出した。

この令嬢はやはり、ちょっとおかしいらしい。

「そ…そんな、おこがましいのは私の方です」

「いいえ!私は貴女を『ジェイドさん』とお呼びします。これは絶対に、譲れません」

今や、私がセルシアに叱るべきことなんて、もうないに等しい。

彼女はもう、立派に村を動かし始めた。

私の憧れた、令嬢の姿。

あのころの私が羨んでやまない、女性の姿なのに。