月夜の翡翠と貴方【番外集】




「…ありがとう、ございます」

私の髪を梳かす、サラサラという音だけが、空間に響いている。

…穏やかな、心地だった。

鏡ごしに見えるセルシアの表情は、とても柔らかで。


「…こんな風にしていると、まるでお友達になったような気がしますね」


……友、達……

鏡ごしに、セルシアと目を合わせる。

…彼女は優しく、微笑んでいた。


「私、ずっと憧れていましたの。歳の近い女の方と、こうやってふたりだけでお話すること。私に姉妹はいませんし…貴族のご友人はいるけれど、所詮は上辺だけ」


心を許して話すことなんて出来ませんわ、という言葉を、私は目を伏せて聞いた。

…私にも、令嬢の友人はいた。

けれど皆、リズパナリの家の状態が悪くなるにつれて、離れていった。

…その程度のものなのかと、ショックを受けたのを覚えている。

「ですからこうやって、家のことなど気にせずに貴女と話せることが、私、とても嬉しいのです」

そう言って、セルシアは笑う。

……泣いてしまいそうだった。

セルシアが私のことを、そんなふうに思っていてくれたなんて。


「……ねえ、ジェイドさん」


カタン、と鏡台に櫛を置くと、セルシアは近くの棚の引き出しを開けた。