月夜の翡翠と貴方【番外集】




「…え?」

髪?

「下ろしているのは、少し動きにくいのではないかと思いまして」

そう言って、セルシアは優しく笑う。

…確かに。

今までは気にしなかったが、髪を下ろしていると邪魔になるかもしれない。

実際に以前、切られてしまったこともある。

「あ…じゃあ、お願いします」

「はい!どう結びましょう?後ろにひとつが、いちばん無難かしら」

すると、やりとりを聞いていたルトが「それは駄目」と言った。

「あら、どうして?」

「…知り合いの女を、思い出す」

…ミラゼか。

ルトの表情には、とてつもなく嫌だという感情が滲み出ている。

「…そう、なんですの?では、どうしましょう」

「横にひとつでいいよ」

髪を結んだ姿をルトに見せるのは、初めてな気がする。

けれど案外、彼は興味なさ気だ。