月夜の翡翠と貴方【番外集】



「右手上げて」


ルトが、優しく微笑む。


………今夜、彼は獣になる。


敵を鋭く見つめ、その身体をしなやかに、自由自在に動かす獣になる。

そんな一面を全く伺わせない彼の表情は、怖いほど穏やかで。

私がおずおずと上げた右手に、彼はパンと音を鳴らして自らの手のひらを重ねた。

驚いて目を見開くと、彼は「いつもやるの」と笑う。

「誰かと組んだ時とか。まぁ、これからはお前だけだけど」

そのまま、私の手のひらを包むように握ると、一歩私へ近づいた。

強くて優しい深緑と、目を合わせる。

私がゆっくりとその手を握り返すと、ルトは小さく口を開いた。


「ー…自分を信じて、俺を信じて」


落ち着いた綺麗な声が、私の中へ響く。

…私が信じられるものは、もとよりふたつだけよ。

愛しい彼と、私自身。

「怖くなったら、俺を呼べ。ひとりで戦おうとするな」

そして彼は、まるで射抜くような視線で、私を捉えて。


「…お前はもう、ひとりじゃない」


強く、強く。

私の胸を、揺さぶった。