月夜の翡翠と貴方【番外集】



上層の貴族令嬢が、直接村人たちに呼びかけるなんてこと、今までになかったのだろう。

不安に思いながら、私とルトはその姿を少し離れたところで見守っていた。

「村の皆様に、お手伝いをお願いしたいことがあるのです!」

村人たちが、眉を寄せる。

どうやら話を聞きつけたらしい村人たちまで、ぞろぞろと通りへ集まってきた。


「もちろん、タダでとは言いませんわ!報酬もお出し致します!」


『報酬』という言葉が出た瞬間、辺りがざわめき始めた。

…報酬、なんて。

出すような余裕が、今のオリザーヌにあるのか?

「…なるほどな」

隣でそう呟いたルトは、半ば呆れたようにため息をついた。

「…失業だらけで諦め切ってるこの村で、公共事業を提供するのは、村人たちにとっては願っても無いことだよ」

…それは、わかるけれど。

「だからって…オリザーヌにそんな余裕は…」

「それでも、だよ。意地でも報酬を出そうと、また奮闘するんだろうな」

…セルシア自身の生活だって、どんどん変わっていっているはずなのに。

それでも彼女は、まだ身を削ろうとする。

村のために、人々のために。