「村人にって…何考えてんの、絶対無理だって!」
「でも…!うちの使用人は今、結婚のための準備で忙しくて…おふたりだけでは大変ですわ!」
「そ、そうだけどさ…」
…セルシアが焦っているのは、昨日の夜にも強盗が民家へ侵入したからだ。
私達がディアフィーネへ戻った頃には、もう強盗は姿を消していた。
これ以上被害を大きくするわけにはいかないと言って、彼女は泣いていたのだ。
…時間もない、人手も足りない。
オリザーヌの使用人は、明日のロディー訪問と結婚の準備で忙しいとなると…
村人に手伝ってもらうしかない、というのは、私もルトも考えたことではある。
しかし、オリザーヌに反感を持っている村の者が、セルシアの頼みを聞きいれてくれるかどうか。
「村の人々も、毎晩強盗に怯えているのです!きっと協力してくれるわ!」
なにも言い返せないルトの手を振り払って、セルシアはまた駆け出す。
ルトは諦めたような顔をして、その後ろ姿を見守っていた。
通りの真ん中に立った彼女を、周りの村人たちは不思議そうに見つめる。
「セルシア・オリザーヌです!どうか私の話を聞いてください!」
そうセルシアが大声を出すと、なんだなんだと民家の窓や戸口が開いていった。



