月夜の翡翠と貴方【番外集】



声の質から表情、視線やしなやかに伸ばされた指の先まで。

彼女こそが、『ピスパニラ』。

そう思わせるほどに、ロゼはその独特な雰囲気で『ピスパニラ』を演じていた。

歳も、私より少し下なくらいだろう。

しかしロゼは、どことなく感じさせる確かな気品と、気の強い性格を見事に自身の魅力へと変えている。

…さすがは、劇団一家の娘。

魅せられるとは、こういうことなのだろうと思った。


スジュナも、穏やかな顔でロゼを見ている。

「『森のおくの、ずーっとおく。ようせいたちがひらひら舞う森のおくから、わたしは来たの』」

…よかった。

台詞は全て暗記しているようだが、本番で緊張のあまり忘れてしまうのではないかと心配していた。

隣を見ると、ルトもどこか安堵を浮かべた表情をしている。

目が合い、小さく笑い合った。


第一項目の演技が終わり、第二項目へとうつる。

椅子に腰掛けたピスパニラと、その前に立ったレミールは、楽しげに話をするのだ。


スジュナは優しげに微笑むロゼへ、明るく「『ピスパニラ!』」と言った。