月夜の翡翠と貴方【番外集】



私が眉を寄せていると、ルトは静かに笑うのをやめた。

そして、私の目をじっと見る。


「…『ああ、奴隷にもちゃんと意思があるんだな』って、思ったんだよ。従うばっかじゃなくて、嫌な相手にはその意思を示せるんだなって」


…彼はやはり、変わっていると思う。

見方が、違う。価値観が、違う。

他のひととは、やはり違う。


「こいつらも、人間だよなって思った。だから、平等でいたいと思った。俺が強引に買うって言っても、お前は結局従ってただろうけど。でも、それは気分悪いからさ。それだけだよ」

…ああ、そういえば、彼は言っていた。

私が意地でもフードをとらなかったとき、彼はそれでも『自らとって欲しい』と。

『俺がとってもいいけど、それじゃ気分が悪いから』と。


「…ルトは、やっぱり変」


小さく笑いながら言うと、彼は眉を下げて「変じゃないから」と唇を尖らせた。


…奴隷にも、意思はある、か。


それはひとにもよると思うが、確実に、奴隷にも感情というものはある。

等しく人間が持っているものであり、生きている限り失うことのないものだ。