月夜の翡翠と貴方【番外集】



…けれど、今は。


もう、それらを制して、壁を作る必要もなくなった。

ルトは彼自身の意思で、私をマテンから奪還し。

私は私の意思でルトと一緒にいることを決めた。


ルトは私から顔を離すと、手を繋いで、再び歩き出す。

甘い、甘い。

けれど、少し、切ない。


ルトの手をぎゅ、と握ると、彼はこちらを見て、明るく笑った。

その顔を見つめて、どうしようもない想いが生まれる。

…お互いに、阻むものがなくなったはず、なのに。

実は。


…ルトは、私にキス以上をしてこない、のだ。


あの夜、私が疲れているから、と止めたのが悪かったのか。

夜は、テントや宿のベッドで、ふたりで一緒に寝るだけで。

ルトが望むのなら、私は別に構わない。

というか、もとから私はこうだ。

それを、ルトもわかっているはずなのに。