「唯ちゃん?
 会わせてあげることは出来ないって?」


不安げに問いかけてくる雪貴。


「二人とももう天国の住人。
 私の両親もね、音楽家だったの。

 天才だって当時、世間で持てはやされたお父さん。
 でもやっぱり低迷期って訪れるのよね。

 その低迷期から復活することが出来ないまま、
 自らの命を捨てたのがお父さん。 

 『唯香はもう一人で生きていけるわよね』って
 そう言って、私を神前悧羅学院に入学させて、
 ずっと寮生活をさせている間に、
 お父さんの後を追ってしまったお母さん。

 恨んだ時期もあったけど、
 二人が居たから私は生まれて、
 音楽があったから、
 私は音に支えられて今日まで歩いてこられた。

 生きてる二人に逢ってもらうことは出来ないけど、
 久しぶりに二人が眠るお墓に行こうと思う。

 そこでいいなら、雪貴もあってやって。
 どうしようもない、親だけどね」



ずっと抱えてきたもう一つの秘密。


これは隆雪さんにも話したことがない
私の過去。



全てを告げた私を雪貴はただ黙って抱き寄せた。




雪貴たちの卒業式の準備は
日々の職員会議の中で、
在校生たちの間で進められていく。



三校の生徒が一堂に悧羅校に集う
卒業式もまた、一大イベント。


厳かな卒業式に後に
続くのは卒業舞踏会。


当日の成功の為に、
念入りに準備がすすめられる。



私もまた、卒業生の名前を読み上げられている間
三年間の思い出になる曲を
メドレーにして順番にピアノで演奏していくことが
決まっていて、それの練習に余念がない。



卒業までの一ヶ月は、
慌ただしさの中に消えていった。


卒業式当日。

百花がデザインした、ドレスに身を包んで
私は自宅マンションを出る。

制服姿が見納めとなる
雪貴に、一目出勤前に逢いたくて。


雪貴の自宅マンションにまで入らずに、
マンションの前で、雪貴を待ち伏せする私。


「おはよう、唯ちゃん」

「おはよう、雪貴。
 いよいよ、卒業だね」

「って唯ちゃん、何外で待ってるの?
 寒いでしょ、入ればいいのに?」

「ダァーめ。今日は雪貴の担任でいられる最後の日だもの。
 担任として雪貴をしっかりと送りだすんだから」

そう言って笑いかける私。