雪貴の高校生活最後の半年。

教師と生徒。

そんな関係、最後の時間は
瞬く間に過ぎて、
雪貴たちは卒業試験も無事に終えた。

卒業試験の最後を、
学院内全ての三校同学年内一位と言う
成績で卒業が決定した雪貴は、
卒業式までの間、自宅マンションで
過ごしながら、
ゆったりとした日を過ごしていた。

私はそんな雪貴にご飯を作りに
度々、マンションを訪れることはあっても
けじめとして泊まることはなかった。



「唯ちゃん、あのさ。

 卒業式の次の日、今年は休みでしょ。
 行きたいところがあるんだ」


洗い物をしてる私に、
リビングのソファーに腰掛けて
ギターの弦を張り替えながら、
雪貴が話しかける。


「うん。
 私も雪貴と出掛けたいって思ってたから。
 繰り上がりで、
 大学は悧羅の音楽部に進学するのよね」

「唯ちゃんの推薦もあったしね。
 これで今度は、唯ちゃんの後輩になるね」

「うん。
 それで雪貴、どこに行きたいの?」

そう言った私に、雪貴は
作業の手を止めてソファーから立ちあがると
ゆっくりと洗い物を続ける私の傍に近づいてくる。



「唯ちゃん、覚えてる?
 高校卒業したら結婚したいって俺が言ったこと」

「えぇ。
 忘れるわけないでしょ」

「だからその為に行くんだ。

 高校卒業したら、俺は唯ちゃんの生徒じゃなくなる。
 晴れて彼氏になれるだろ。

 唯ちゃんは俺の両親に挨拶してくれたけど、
 俺は唯ちゃんの両親を知らないから。

 だからコソコソしなくていいように、
 堂々と挨拶に行きたいんだ」


そうやって力強く告げた雪貴の言葉に
心の奥底から、ほんわりと暖かくなっていく。



「……有難う……。
 そんな風に考えてくれてたんだね。

 今の雪貴の気持ちを話してくれたら、
 お父さんもお母さんも喜んでくれると思う。

 もう雪貴にあわせてあげることは出来ないけど」


そう……。

どれだけ望んでも、
生きてるお父さんとお母さんに、
雪貴をあわせることは出来ない。


私の大切な二人は、
もうこの世には居ないから。


だけど……嬉しかった……。
雪貴の想いが……。