俺の覚悟をありのまま形にしたかったから。






俺と唯ちゃんの出会いの原点には、
いつも兄貴が居た。


兄貴は旅立った後も、
いつも俺と唯ちゃんと二人の心に中に
住み続ける。


兄貴は唯ちゃんが幸せになることを
応援してくれる。

そして……俺自身が幸せを掴むことも。




そう思ったら、俺がアレンジする曲は
一つしか思いつかなかった。



兄貴が作ったAnsyalの名曲。


あの曲をベースに、
少しずつ変奏を加えて、
俺の曲へと転調して繋げていく。



二つの絆を一つにして、
唯ちゃんを抱くこと。




そしてAnsyalの曲を選ぶことで、
俺自身も何処までいっても
Ansyalなのだと伝えたくて。




宮向井雪貴は、
新生Ansyalの、
二代目 TAKAとして
歩いて行きたいと……
メッセージを伝えたくて。



ピアノの前に座った俺は、
深由さんのタクトを合図に、
ゆっくりと天の調べ、
メインテーマを演奏していく。


単独だった俺のピアノの音を
追いかけるように、
国臣さんの音色が重なっていく。


絡まりあう音は、
ストリングスとあわさって、
より深みを増して広がっていく。


ゆっくりと変奏していく
第一楽章から続く三つの物語。



全ての演奏を終えた時、
会場内から拍手が嵐のように湧き上がった。



ゆっくりとピアノの前から
立ち上がった国臣が俺に合図をする。


俺もゆっくりと椅子から立ち上がると、
深由さんたち二人が待つ場所へと
足を進めた。

ステージ中央、お互いを讃えあうように
軽く抱き合った後、
三人で肩を並べて、観客へとお辞儀をする。


次は深由さんだけ後ろを向いて、
オケメンバーをたたせる。


そしてもう一度、
深々とお辞儀をした。




今も鳴りやまぬ拍手が、
留学最終課題の達成を教えてくれた。






その後は、国臣さんから
「DTVTに入らないか?」と
猛烈なアプローチを貰ったけれど、
俺は丁重にそれを断った。