「……唯ちゃん……。
 久しぶり」

「うん……。
 ごめん、雪貴」



駄目だ……。

涙腺崩壊日だよ。

ようやく止まった涙が、
また止まらなくなって
電話口で泣きながら鼻をすすってる私。


「後でそっちに顔出すから。

 今から移動なんだ、
 事務所に戻ってから帰るから」


雪貴は静かに告げると、
電話は切れた。


雪貴との電話が切れた後、
涙を必死に止めようと、
冷えてしまった残りのハーブティを一気に飲み干す。


するとホテルのフロントからコールが鳴り響く。


フロントコールの電話をすかさず受ける
裕先生。


「わかりました。通してください」


短くそう告げて電話を切ると、
裕先生は私に向き直った。


「唯香ちゃん、
 お客様が来たみたいだよ」


そう告げると、
暫くしてお客様らしき人を
室内に迎え入れた。
 

裕先生と一緒に室内に入ってきたその人に
思わずドン引きする。


「りっ……理事長」


泣き崩れてぐちゃぐちゃのメイクすら
直す時間もなく、
ソファーから思いっきり立ち上がって
深々とお辞儀した。

急に行動を起こし過ぎて、
ふらつく体。

その体を支えながら、
視線で怒ってる裕先生。

裕先生になされるまま、
また私はソファ-へと誘導される。

いつも優しいだけだと思ってたのに、
怒ると一瞬に周囲の空気が凍り付くんだ。

新たな発見をした頃、
理事長は裕先生へと
ゆっくりと敬愛の姿勢をとった。


「一綺、体を起こしなさい。
 
 私が貴方の最高総で
 あったのは随分前ですよ。

 紫さまが理事長より退き、
 今は貴方が学院理事長です。

 後のことはお任せしましたよ」


やんわりとした口調で再び、
理事長に語り始める裕先生。


あれっ?

今気がついた……。


理事長と裕先生の髪型って同じだよ。
それに、裕真先生や高臣さんも。

それは皆、私が学生時代の理事長がしていた
髪型と全く同じことに今更気が付く。


何か意味でもあるのかな?


そんなことを考えていた時、
「緋崎先生」っと理事長に声をかけられた。


慌てて理事長に向き直る。


「この度は申し訳ありませんでした。
 理事長」


座ったままで申し訳ないなと思いつつも、
立ちあがるとまた冷気に充てられそうで
その場で深く頭を下げた。