「今回、俺と唯ちゃんの一件が
 こんなにも世間を騒がせてしまって
 正直、今も戸惑っています。

 唯ちゃんと最初に逢った時、
 俺はまだ小さくて何も出来なかった。

 当時はクラシックしか知らなくて、
 ずっと兄貴に憧れつづける
 そんな時間でした。

 生きると言うことに息苦しさすら覚えて、
 壊れそうになってる俺を、
 兄貴はAnsyalへと
 引き合わせてくれました。

 そんな時、彼女……唯ちゃんと最初に逢いました。
  
 その日は兄貴が病院で脳腫瘍の告知を受けた日だったのですが、
 そんなことは俺たち家族もバンドメンバーも誰も知らなくて、
 帰りが遅すぎる兄貴を探すために、
 俺は兄貴が好きだった場所に出掛けたんです。

 その場所で、自らの命を終わらせようとしていたのが
 彼女、俺の大切な唯ちゃんでした。

 唯ちゃんを助けたいけど、まだ幼かった俺には
 唯ちゃんを掴んで支えることも出ないと思った。

 だから助けることが出来る大人を呼びたくて、
 その場所を離れました。

 そんな俺が助けられなかった彼女助けたのが、
 兄貴です。

 彼女の存在が、同じ時、
 腫瘍の告知を受けて自らの存在を
 終わらせようと、
 あの場所を訪れていた兄貴の心を助けました。

 全てはその日から続いています。

 俺と兄貴は同じ人に想いを寄せました。

 兄貴が彼女の元に残した曲は、
 最初に演奏したAnsyalの兄貴の名曲。

 そして唯ちゃんは、その曲を手掛かりに
 兄貴を見つけ出して、
 AnsyalのLIVEに通うようになりました。

 そして……俺は、皆様がご承知の通り
 兄貴の影として、兄貴が入院してからは
 ずっとTakaとして
 Ansyalメンバーと時を過ごしました。

 その俺の前に教師として姿を見せたのは、
 高校一年生の四月。

 正直驚きました。

 でも彼女と兄貴は両想い。
 
 唯ちゃんは、
 兄貴が入院していることも知らなかった。

 唯ちゃんを前にすると、
 俺はTakaとして過ごす自分に戸惑う時がありました。

 隆雪なのか、雪貴なのか。

 そんな時に作ったのが、二曲目に演奏した
 あの曲です。

 あの曲は生涯、ただ一人。
 唯ちゃんの為にだけ、演奏すると決めています。

 兄貴が天国に旅立って、
 俺の願いは唯ちゃんにようやく届きました。

 兄貴が亡くなって、
 俺が食事も何も出来なくなって、
 生きることすら放棄したそんな時間を
 一番近くで支えてくれたのも唯ちゃんでした。

 だから……今は見守ってください。

 たまたま愛したその人が、
 学校の教師だったんです。

 教師だから唯ちゃんを好きになったわけじゃない。

 もっと前から……出会うべくして、
 出会ってた……。

 お互いが精一杯、
 それぞれの未来を一緒に歩いて行くために」 


この想いの全てを……。

ゆっくりと言いたい言葉を吐き出すと、
俺は静かに深々とお辞儀をした。

シーンとした会場。


「最後になりますが、
 Takaと唯ちゃんの想いを
 皆様もどうぞ、見守ってやってください。

 Ansyalは、 メンバー全員で
 Takaと唯ちゃんの恋を応援します」



託実さんのそんな声で、
記者会見は終わった。


少しずつ未来は広がっていく。
だから今やれることをしよう。