唯ちゃんの声が聴きたくてかけた電話は、
十夜さんと託実さんで途切れて、
とうの唯ちゃんまで辿りつかない。
唯ちゃん、どうしてる?
なんで十夜さんのところにいるの?
十夜さんのところにいるくらいなら、
俺のマンションにいたらいいだろう?
それに託実さんの最後の言葉……。
どういう意味なんだよ。
不安材料が益々増えた俺は、
今まで以上に、
練習に身は入らない。
「雪貴、開けるよ」
ガチャリと重たいドアが開いて
顔を見せたのは、
エルディノ先生。
エルディノ先生は
ピアノに座らせて伊集院さんより出されている
テレーゼの第一楽章を弾くように指示する。
約8分少しの演奏を終えた後、
彼はゆっくりと告げた。
「君が今一番演奏したい曲を」
エルディノ先生に告げられて、
無意識に俺が選んだのは、
唯ちゃんが好きな兄貴の名曲。
演奏し終わるまで黙って聞き続けた
エルディノ先生は、
俺の傍から立ち上がり、
俺の手首を掴んでレッスン室から連れ出した。
身が入ってないから、
集中出来てないから怒ってるんだ。
そう思ったら俺自身が情けなくなった。
エルディノ先生に連れていかれた俺は、
国臣さんたちの前へと連れられる。



