「唯ちゃん、
 なんやそんな顔して。

 そんな辛そうな顔、
 唯ちゃんには似合わんやろ」





突然、降り注いだ声に
反射的に顔をあげる。




「……十夜……さん」





突然、現れた見慣れた顔に
我を忘れて、
しがみ付くように声を上げる。





ただ泣き崩れる私の髪を
十夜さんは、
ただ黙って撫でてくれて……。






「こんな体冷やして。

 女の子が
 体冷やしたらあかんやろ。

 おいで」




抱きかかえられるように
立ち上がらせた私を
あの大きな車の方へと連れていく。




「志隠……」

「悪い、拾い物」

「もう、拾い物って。
 また志隠の悪い癖出てる」




そう言いながら
迎え入れてくれた車内。


車の中に居た女の人は
十夜さんのことを、
親しげに『志隠【しおん】』と呼ぶ。



「紀天、【priere de l'ange】へ。
 茂さんに一本連絡しておいて」

「あぁ」



何が何だか思考回路が追い付かないままに、
私は十夜さんたちと一緒に
憲さんの運転する車で、
何処かに向かっているみたいだった。






闇が降りてくる夜。





思い通りにならない
現実【いま】に苦しむ刻【よる】。